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2015年5月11日 (月)

ある造形士の物語

その男は、腕のいい造形士だった。

彼の作った作品は、人々の心をなごませ、幸せな気持ちにさせた。

それはまるで魔法のように、驚くほどのパワーを発して、見る人の心を癒した。

そんな彼のことを知りたいと、取材陣たちが彼のもとにやってきたのだが、
彼の置かれてる現状に絶句した。

どこにでもいそうな気の弱そうな造形士に対して、その妻は、まさに悪妻と呼べるものだった。

取材陣に対して妻は、夫の愚痴を並べたて、
いかに自分がさえない夫に嫌気がさしつつも尽くしているかをアピールしまくった。

「家の中に夫の存在を感じるだけでイライラするの。
でも私はちゃんと彼のために風呂を沸かしたり、食事を作ったり、頑張ってるのよ!
むしろみんなは私に感謝してほしいわ!」

造形士の夫はそのわきで、下を向きながら、困ったように笑っているだけ。

かつてこの二人は仲睦まじく、理解しあったこともあったのだが、
年月を経て、妻は外へ外へと気持ちが働き、
反して、夫は内へ内へと向かい、いまや夫婦は対極の位置にいた。

時に人は、何かを極めようとすればするほど、挙動不審とも思えるような雰囲気をかもしだすようになって、
そんな夫に、妻は理解できないし、我慢できないことだった。

周囲に聞き取りをしてわかったことは、
妻は夫が稼いだお金のほとんどを美容やファッション、海外旅行など、
すべて自分のためにゴージャスに使っているということだった。

夫に感謝する気持ちなど1ミリもない。

それに対して造形士は、どこにも行かず、部屋に閉じこもって、ただただ作品造りに没頭してるという状況。

わが家というのに、造形士は、暴言を吐かれないために、
家の中で妻と鉢合わせにならないよう、こそこそと生きてるのだった。

妻から暴力は振るわれないものの、暴言や罵声、悪態は、
彼の体に異常をきたし、何度も胃潰瘍などで入退院を繰り返していることも分かった。

妻からの虐待に不安を感じ、彼の命の危険を感じた取材陣たちは、
彼を助けようと、いろいろ手を尽くして、別居させることに成功した。

悪妻は、家を立ち去る造形士の背中に向受けて、

「あなたはけっして私から離れることは出来ないのよ!!」

と暴言を吐いた。

.

造形士は、生まれて初めてと思えるほど、リラックスした生活を迎えることになった。

広々とした作業場と住まいで、家事など全般はスタッフがやってくれる。

彼はのびのびと、妻の陰に恐れずに、作品作りに励むことが出来るようになった。

そうこうして、やがて彼は自信を取戻し、もともと人の好い性格が効して、人気上昇、
テレビ出演、講演などにも呼ばれ、
あちこち世界を飛び回るような生活になって行った。

同業者とのパーティー、サイン会、握手会、その合間を縫っての作品作り。

今までのノウハウがあるから、基本を踏まえてやるだけで、ちゃっちゃと作品を完成することが出来た。

だが、そんな心のこもっていないものは、見てるものにもわかり、しだいに人気が落ちて行った。

そして売り上げはどんどん下がり、「とげとげしさを感じる」とまで言われるしまつ。

造形士は、ショックを受けた。

‘自分こそが、一番の、人々の心を癒す存在だったはずだ!‘

焦りを感じた彼は、人前に出るのをやめて、作品造りに没頭することにした。

昔のように、狭い部屋に家具配置を再現し、食事もつつましいものに戻した。

だが、作品に魂がこもらない、見てるものに感動を与えない。

どうやっても前のようないい作品を作ることが出来なかった。

彼は、ノイローゼになりそうなほど憔悴しきってしまった。

そんなある日、彼は夢を見た。

妻に悪態をつかれる自分。

それは、とげのような、いや、爆弾ほどの威力がある妻の言葉に、体全体に身震いを覚えながら、
部屋に逃げ帰り、半分意識がないような状態でぶつぶつ独り言を言いながら、
作品に向かっている自分の姿だった。

‘そうか!自分を癒すために私は作品を作っていたのか!
それが、見てる人にも伝わって、癒してたんだ!‘

彼は、「自分を癒すという目的」が、最高傑作を作り出すことに気が付いたのだった。

.

造形士は、心配する周囲を押し切って、妻のもとに戻った。

妻のもとにいれば、また体を壊し、入院を繰り返すことだろう。

場合によっては、早死にしてしまうかもしれない。

だが、いい作品を作れないということは、死んでるのも同然だとおもえた。

死ぬぎりぎりまで、いい作品を作りたかった。

玄関のドアを開けると、仁王立ちした妻が、

「言ったでしょ。あなたは私から離れられないって」

と言って、勝ち誇った表情で見下ろしていた。

落ち込んでいる人は、想像力豊か

そう心理学者が言っていた。

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